映画『ブルーバレンタイン』の音楽演出:ライアン・ゴズリングと再発レーベル 『ブルーバレンタイン』

映画『ブルーバレンタイン』の音楽演出:ライアン・ゴズリングと再発レーベル

3月20日に公開された話題のSF映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』。主演を務めるのは数々の名作に出演してきたライアン・ゴズリングだ。この記事では、ライアン・ゴズリングと音楽が密接に関わった映画として、『ブルー・バレンタイン』について振り返りたい。

「You and Me」が『ブルーバレンタイン』に選ばれた経緯

『ブルーバレンタイン』は、デレク・シアンフランス監督による2010年公開の映画で、ある夫婦の出会いから別れまでをリアルに描き、高い評価を得た。夫ディーンに扮するのはライアン・ゴズリングで、妻ミシェルを演じたのはミシェル・ウィリアムズ。二人は、第68回ゴールデングローブ賞にノミネートされている。

この映画の挿入曲として使われたのが、ペニー・アンド・ザ・クォーターズが歌うアコースティックなソウル「You and Me」。もともとこの曲は、1970年代にオハイオ州コロンバスで録音されたものの、結局お蔵入りとなったデモ曲だった。忘れ去られていたこの未発表曲が発掘されたのは、ようやく2005年になってから。そして、この穏やかなソウル・ミュージックに着目したのが、再発・発掘レーベルとして名高いヌメロ・グループだ。ヌメロは、2007年に出したコンピ『Eccentric Soul: The Prix Label』で、この曲を19曲中18番目に収録している。

そもそもコンピ自体の売り上げが低調で、アルバムの中でも目立った存在とは言えなかった「You and Me」。しかし、この曲は、『ブルーバレンタイン』に使われたことで注目され、一躍人気曲になる。そして最初のコンピから15年経った2022年、「You and Me」を中心とするコンピ、『Penny & The Quarters & Friends』がリリースされる。

驚くべきことに、映画の選曲には、ライアン・ゴズリング自身が大きく関わっている。インディペンデント紙によれば、「ミシェル・ウィリアムズとの関係を表現する曲を求められたライアンが、監督に提供した」のが「You and Me」だったそうだ。もともと、彼はヌメロのアルバムを聴いていたらしく、「You and Me」のリリース・ページにも、ライアンはヌメロの”ファン”だと書かれている。

respected screen actor and avowed Numero fan Ryan Gosling

ヌメロによる「You and Me」リリース・ページ

「You and Me」が流れる二つのシーン

ここからは、「You and Me」が使われたシーンの演出について、タイムコードをつけながら見ていこう。

「You and Me」は『ブルーバレンタイン』の中で2回流れる。2回とも、ライアンが、「You and Me」が収録されていると思しきCDを、プレイヤーに入れてかけている。曲自体を強調する印象的な使われ方で、劇中に歌詞まで出てくるため、「You and Me」が、この映画にとっていかに重要かがわかる。

「君と僕 2人きり 他には誰もいらない」と歌い、ライアンとミシェル演じる夫婦の関係性を表すために選ばれた「You and Me」。しかし、曲がかかる2つのシーンはかなり対照的だ。一回目はライアンが演じたディーンとミシェル扮するシンディが、ラブホテルで踊るシーン。41分8秒あたりで曲が流れます。ドア越しに引いた距離、少し冷めた目線で、カメラは踊っている二人を捉える。

二度目は後半、二人が幸せの絶頂にある頃の回想シーン。映画の1時間36分22秒、またもCDを入れて「You and Me」が聞こえてくると、カメラは、幸せな二人が抱き合っている顔をアップで映している。CDをかける前に、ライアンは次のセリフを言う。

みんなと同じありきたりの曲じゃつまらないだろ。これは俺たちだけの曲

二人だけの思い出の曲であるラブソングを聴き、同じように抱き合っていても、心の距離はすっかり変わってしまっている。この二つのシーンは、夫婦の関係性の変化を巧みに演出していると言えるだろう。

ライアン・ゴズリングの台詞と再発レーベル

「みんなと同じありきたりの曲じゃつまらないだろ。これは俺たちだけの曲」という台詞は、「You and Me」が夫婦の思い出の曲であることを端的に示している。また、この曲が『ブルーバレンタイン』に選ばれた経緯を思い返すと、この曲が人知れずつくられ、そして発掘されたこと、その意義を表しているように思える。

映画やドラマの挿入歌として使われたソウル・ミュージックはたくさんある。たとえば、マーヴィン・ゲイ「Ain’t No Mountain High Enough」や「What’s Going On」。しかし、『ブルーバレンタイン』を見たあとだと、夫婦の非常にパーソナルな関係性を深く描いたこの映画に、有名で煌びやかなソウルを使ったとしてもしっくりこない。

実際、「You and Me」は、有名なソウル音楽を使うよりも「俺たちだけの曲」という台詞に説得力を持たせている。曲が発掘され、ヌメロ・グループが再発しなければ、そしてライアン・ゴズリングがヌメロのコンピレーション・アルバムを聴いていなければ、この映画は違ったものになっていた可能性さえある。

ライアンが上の台詞を言ったこと、彼が映画の選曲に関わっていたこと、そしてヌメロのファンであることなどの事情を踏まえると、「みんなと同じありきたりな曲じゃつまらない」は、とても示唆的な台詞だ。この言葉には、忘れられた曲を再発・発掘し、映画やドラマ、CMなどで使用可能にするヌメロのようなレーベルの存在意義についても考えさせられる。知らない曲が流れた映画のエンドロールを見る際に、アーティスト名や曲名だけでなく、”courtesy of (レーベル名)”の部分にも注目してみてほしい。

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ブルーバレンタイン

原題
Blue Valentine
監督
デレク・シアンフランス
出演
ライアン・ゴズリング, ミシェル・ウィリアムズ, ジョン・ドーマン, フェイス・ワラジカ
製作年
2010
製作国
アメリカ合衆国
上映時間
114 min
配給
クロックワークス
コピーライト
(C)2010 HAMILTON FILM PRODUCTIONS